聖夜に突撃!お宅の晩御飯☆
12月24日の夜。
聖夜と呼ばれるその夜は、豪華な食事とほんの少しの贅沢をする。
そして今、食卓に色とりどりの豪勢な食事が揃い始め、そろそろ最後の一品の完成を待つばかり。
そんな頃合で、インターホンが鳴った。
佐助は手が放せないというから幸村が出てみれば。
「幸村様!メリークリスマス!!!」
見知った顔の男がそんなことを言いながら花束をぶわさぁっと差し出してきた。
立ち上る上品な香りは真っ赤な薔薇。
こんな馬鹿げたものを聖夜に持ち歩いていれば気障野郎認定は間違いないだろうが、この男…海野六郎ならばそうはならない。
整った顔立ちの男がいい具合に年を重ね、立ち振る舞いにも品が残るこいつは無駄にこんな行為が似合う。
似合いすぎて気持ち悪いくらいだ。
「う…海野?」
うっかり花束を受け取ってしまった幸村はしばらく呆然としたが、この突飛な行動さえ消化してしまえば冷静になれた。
「あ、ありがとう…。それで、一体どうしたのだ?」
「ええ、今日はクリスマスイブですので盛大に祝いに参った次第です」
「へ?」
思わず漏れた間抜けな声に間をおくことなく、後ろからまた元気な声が響いた。
「幸村様こんばんは!そしてメリークリスマス!」
海野の脇から一陣の風と共に飛び込んできたのは由利鎌之助。手にはなにやら箱を持っている。
絵本で出てくるような明らかにプレゼント、という感じのリボンが巻かれたそれは、多分も何もプレゼントなのだろう。
それを当たり前のように鎌之助が差し出してくる。
「これは俺から幸村様へプレゼントです!中身は開けてのお楽しみという事で!」
「おおそうか?悪いな」
快活に笑って渡されたそれを受け取れば、思っていたより重かった。
持った感じから考えて、瓶詰めの液体が妥当なところだろう。クリスマスなのだからワインが確率としては一番高いか。
そんな風に幸村が場の状況に流され始めた頃合で、奥から佐助が飛び出してきた。
「お前ら何やってんだ―――ッ!!」
不審者を追い払うような迫力で持っていたお玉をぶん投げ、それをキャッチされると今度は拳で来た。
「ぐっ」
「いてっ」
海野と鎌之助に容赦なく拳をお見舞いし、幸村を後ろに庇う。
「何の用?!ってか帰れ!」
「理由聞いた瞬間それか?!酷くないか?!」
「煩い!ただでさえ忙しいのにお前らに構ってられっか!!」
「あ、佐助!俺手伝う!お邪魔しまーす幸村様!」
「おお、スリッパはそこだぞ」
「ちょっ旦那?!家上げんの?!」
親切にスリッパの場所まで教えてしまっている幸村に、佐助が仰天する。
しかし動きの素早い鎌之助は既に上がりこんでおり、スリッパも装着済みだ。
「火使ってるんでしょ?俺が見てるから!」
当たり前のように奥へ入ってく鎌之助を見送る形になり、佐助はせめてコイツだけは…!と海野を睨みつけた。
しかしその瞬間、また来た。
「あ、幸村様、メリークリスマス!そして長、お邪魔します…。何だかすみません、大勢で押しかけてしまいまして」
幸村を見て顔を綻ばせ、佐助のしかめっ面を見て物凄く申し訳無さそうな顔をしたのは小介だった。
主と長の命を絶対とするこの男は、佐助をからかったりしたことは未だかつて無い。
性格は忍らしく冷酷な一面も持ってはいるが、幸村や佐助に対しては限りなく素直な男だった。
つまり、この状況で佐助が「帰れ」と言えば、即刻回れ右するという事だ。
しかし佐助がそれを言う前に幸村が先に口を開いた。
「よく来たな小介!」
佐助が言おうとしていたことの真逆の言葉、明らかに歓迎する感じの態度だ。
大人数で騒ぐことが好きな幸村は、こうも知った面々が一気に押し寄せてテンションが上がってしまったらしい。
次は誰が来るのかと玄関を気にしている。
「えーちょっと旦那ぁ、まさかこいつら全部家に上げるの?」
「来てしまったものは仕方がなかろう。手ぶらで来た訳ではないのだし、礼儀も弁えておる」
「うぇ、あんだけ苦労して作った料理がこいつらに蹂躙されるわけか…っ」
がっくり佐助が項垂れたところで、気付けば海野もスリッパに履き替えてちゃっかり奥へと向かっている。
「それでは遠慮なくお邪魔します幸村様〜」
そんな捨て台詞を残し悠々と去っていく男が邪魔で仕方が無い。今すぐ排除したかった。
しかしそんな佐助の思いとは裏腹に、幸村は快く家の中へと人を上げてゆく。
「小介も上がれよ?佐助は俺が宥めておくから気にするな」
佐助の態度にどう行動すべきか悩んでいた小介が、幸村のその言葉でさっと家へ上がりこんだ。
いつ如何なる時であろうと、優先順位の頂点には必ず幸村が君臨している。元忍隊ならば誰であれ身のうちに刻んでいる絶対事項だ。
そんな幸村の言葉に逆らう馬鹿はいない。
小介は手に持っていた包みを幸村に渡し、相変わらず足音のしない歩き方で奥へと消えていった。
「いきなり賑やかになったな」
苦笑しながら幸村が言えば、佐助が肩をすくめながら答えた。
「…ったく、まぁあんたが良いならそれで良いんですけどね」
「ほう、物分りが良いな」
「言っても聞かないでしょ、あんたは」
「はは、そうか」
ゆったりと流れ始めた気安い空気の中、佐助が何か言い返そうとした瞬間、また鬱陶しいのが闖入してきた。
『幸村様ぁぁぁめりーくりすまぁぁぁすっ!!』
野太い野郎の声が玄関いっぱいに響き渡り、佐助は思わず耳を塞ぐ。
そして幸村はついいつもの癖で腹の底から声を返した。
「ぃよくきたぁぁぁ伊三ぁぁ清海ぃぃぃっ!!!」
「旦那っボリューム落として!ボリュームッ!!」
拳を固めて絶叫する幸村を、耳を塞いだままの佐助が必死に宥める。
しかしそれでは追いつかず、結局自分の耳に当てていた手を幸村の口に移動させることで強制終了となった。
「よぉ、お前らいらっしゃい。それ以上騒いだら叩き出すからな」
「ふむむぐむんっ」
じたばたもがく幸村を押さえつけ、無駄に暑苦しい二人を機械的に出迎える。
しかし清海と伊三は佐助に「長、お邪魔致します!」と爽やかに挨拶し、背に隠し持っていた箱を幸村に向かって差し出した。
「幸村様!お受け取り下さい!ケンタッキーでチキンを買って参りました!」
この日に必ず長蛇の列が出来るあの有名店。チェーン店といえどそこのチキンは確かに美味い。
この寒空の中、長い長い待ち時間を経てやっと手に入れて来たのだろう。そんな苦労もひとえに幸村の喜ぶ顔が見たいから。
それが分かった佐助は、幸村の口を塞いでいた手をすっと退けてやった。
晴れて自由になった幸村は、そんなケンタッキーの箱を見て顔を綻ばせると、期待に輝く目でこんなことを言った。
「そうか!ビスケットはあるか?」
「……っ!!!」
清海と伊三の顔が一気に凍りつく。
幸村の言ったビスケットと言うのは、あれだ。あのメイプルシロップを着けて食べる、あれのことだ。
佐助も別に嫌いではないが、好んで食べるわけではない。
しかし幸村はあれがとても好きだった。
付属のメイプルシロップでは足りず、市販のメイプルシロップを絞りながらぱくぱく食べる姿は、見ていて胸焼け必須。
しかし幸せそうに食べるので目を逸らせない。どこで妥協すべきかが悩みの種の悪循環だ。
食事としてファーストフードを利用することが少ない幸村と佐助だが、サイドメニュー目当てに立ち寄ることはある。
ケンタッキーは久々だったため、幸村は佐助なら必ず買ってくるそれの存在を悪意なく聞いてしまったのだ。
しかし幸村の好みを熟知している佐助ならいざしらず、それを知らない人間にそれを問うのは些か酷なことだった。
「…無いのか」
凍りついた二人の様子に事実を知った幸村が、少し悲しげにそう呟いた瞬間、伊三と清海がしゅばっと風の如く身を翻した。
「今すぐ買って参りま、」
「行かんで良いっ」
がっ、ごっ、と佐助が拳を振るい、無駄に丈夫な二人を全力で無力化する。
今からビスケットを買うためだけにケンタッキーに逆戻りするなんて馬鹿のやることだ。
あらゆる意味でこの者達は馬鹿だと佐助は認識しているが、その症状をこれ以上進行させるつもり毛頭無い。
殴られて討ち伏している二人の襟首を掴み上げ、てきとうに廊下へ放ろうとしたところでもう一人来た。
「お邪魔します主殿。どうぞこれはアイスケーキです」
「おお…!!でかした!」
相変わらず表情の読みにくい顔に、うっすらと微笑をのせて幸村に挨拶したのは才蔵。
何気なく渡しているアイスケーキの箱は某有名店のロゴが入っている。数ヶ月待ちだとこの間テレビでやっていたのに、一体どうやって手に入れたのか。
他にも色々手にしているが、その中の一つを佐助に放って寄こした。
「お、重っ…!!」
佐助が掴んでいた伊佐と清海がべしゃっと床へ崩れ落ち、変わりにその手に投げられた包みが圧し掛かる。
その重さが半端ではない。
腕が軋むのを無視して何とか持ち堪えれば、中身がちゃぷんと音を立てた。
「中身はワインだから落とすなよ。その中に無駄に立派な箱に入っるのがあるからそれはお館様へお渡ししてくれ。…30年ものだ」
「…へいへい」
とんでもない物を投げて寄こした癖に平然としている態度がどうにも腹立たしく思った佐助だが、その辺は流して適当に相槌を打っておく。すると才蔵は下で力なく項垂れている二人組へと目を向けた。
「そこの落ち武者二人、どうせこんなことになってるだろうと思ってビスケット買って来たぞこの間抜け」
「……!!!」
才蔵のその言葉に、打ちひしがれていた二人が顔を上げた。
目に涙でも浮かびそうなほどキラキラした目で才蔵を見ている。
「気持ち悪いからその目をやめろ」
才蔵の言った言葉に佐助が心の中で全力で同意したところで二人が動いた。
「リ、リアルサンタ―――――ッ!!」
凄く馬鹿っぽい称号と共にがばっと抱きつかれ、才蔵のこめかみにぴしりと青筋が浮き上がる。
「嬉しくないっ」
才蔵にしては珍しく怒鳴り、持ち前の怪力を発揮しながら抱きついてくる野郎二人を乱暴に引き剥がし始めた。
「玄関壊したらお前らぶっ殺すかんなー」
それを傍観しつつ物騒な言葉で釘をさし、佐助は幸村を促してその場に背を向けた。
次々色んな物を寄こしてくるせいで、玄関が物で埋まり始めている。
しかも才蔵が持ってきた物はアイスケーキ。すぐに冷凍庫に入れなければ溶けてしまう。
「とりあえず運びましょーか。…その薔薇はどうすっか」
「普通に飾るが?」
「あいつが持ってきた花なんてこの家に飾りたかないですよ」
「うーむ、じゃあ毟って風呂に浮かべてみるか?」
「ふろっ?!」
幸村にはあり得ないようなロマンチックな発言に思わず佐助が噴き出す。
風呂に薔薇の花びら。
…あり得ない。
「一体どこでそんなの覚えたのあんた…?」
「いや、テレビでやってなかったか?クリスマス特集とかなんとか…菖蒲湯みたいなものだろう?」
一気に色気が無くなった。
「あー菖蒲湯ね菖蒲湯。…なるほど、クリスマスは薔薇湯ってわけね」
一気に力が抜けたものの、胸の内に訪れた安心感が半端ではない。
佐助はすがすがしい気分で脱力した。
そこで玄関での騒動を片づけた才蔵が追い付いてきた。
当り前のように幸村が持っている荷物を手伝いに行く。
それに関して文句がある訳ではないので、何となく後ろを振り向いてみれば、玄関の方で本当に落ち武者のようになっている二人が見えた。
才蔵も怒らせると色々容赦がない。
しかし律儀に玄関を閉め、靴を揃えて上がってきていることが彼らしい。
「玄関閉めたってことはこれだけか?…お前らの事だから絶対全員揃うと思ったけど」
全員と言うのはもちろん元十勇士の事だ。
皆一様にうざいくらい幸村が好きなので、他の面子がここまで揃う中欠席なんてありえないと思った佐助だったが、それに才蔵が答えを返した。
「これ以上増えても煩いから鍵を掛けておいた」
涼しい顔でそんなことをさらっと言い、昔と変わらない気配の薄い動作で奥へと消えて行く。
その行動に一応考えは常識人の範疇に入っている佐助はしばし沈黙したが、結局のところ結論はこうだ。
「まぁ、いっか」
はっきり言って佐助も才蔵以上に面倒だと思っているため、その薄情な施錠を受け入れることに異論はない。
そのまま重い荷物を抱えて皆が集っているであろうリビングへ足を向け、固く閉じられた玄関とその傍に落ちている付属物(人)を思考から追い出した。
しかし、どうやっても一筋縄でいかないのが真田忍である。
明かりの洩れるリビングの扉を開いた瞬間、それらは来た。
『あ…長、お邪魔してまーす』
にこやかな笑顔とともに、さっき足りないと数えた面々が手を上げて挨拶を寄こしている。
入口の隅でうなだれている才蔵は見なかったことにした。
「…何で居んの」
ちょっとした刺激でぶつんと切れそうな緒を必死で繋ぎ止め、抑えた声音でそれと聞く。
そして返されたのは単純明快な答え。
「窓から」
「屋根から」
「庭から」
「…入ったの?」
『はい』
「死ね不法侵入者」
懐からちょっと色々尖った暗器言う名の危ないものをぶん投げ、それと同時に佐助も動く。
今の世でも隊内最強と言える技を振るい、躾けのなっていないかつての部下達へ手痛い仕置きをくれてやる。
「突然押し掛けるだけでも十分迷惑なのに、何で不法侵入なんてしちゃうかな〜?」
「あだだだだだだ」
「お前ら小学生でも知ってる決まりも分かんないのかな〜?」
「いたたたたたた」
「しかも何ちゃっかり寛いでるのかな〜?」
「おおおお長長、もうギブッギブ〜〜〜!!」
既に泣きに入ってる面々をぐりぐりと踏みつけ、容赦無く睨みすえる。
それを幸村が、楽しそうに見ている。
「ははは、流石佐助は強いな!」
「幸村様ぁ?!」
感心するところがずれまくっている最愛の主へ素っ頓狂な叫び声を上げ、昔の癖のまま入口以外の場所から入ってしまったお馬鹿さん達は全力で佐助に許しを乞うた。
『すみませんもうしませんごめんなさい本当申し訳ありません』
うっかり血でも吐きそうなその懇願に、幸村が「許してやってもいいのでは?」という表情をし始めた頃合いで、佐助が抑えつけていた足をどけてやった。
「その約束、違えたらこんなもんじゃ済まさないからな?」
やる気のない笑顔で放たれた殺気いっぱいの言葉に、半泣きの元部下たちが全力で首を縦に振る。
そしてそれを幸村が苦笑で許し、それにつられて周りも笑い始める。
「あーあ、何で聖夜に折檻なんてしなきゃなんねーの。…今も昔もお前らは馬鹿で困るね」
佐助も周囲の笑いに釣られてそう言ったところで、皆一様に笑い始めた。
昔からこんな馬鹿騒ぎは変わらない。
くだらなくて、面倒で、鬱陶しいけれど、こうやって笑える。
それが幸せだと気づいたのは、いつだったか。
それを思い返して、昔は知らなかった笑みを浮かべた。
偶には、…本当に偶には、こんなのも良い。
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クリスマスなのに、二人きりとはほど遠い真田主従。
家がやたらとでかそうなのは、お館様の別宅だからです。
っていうかこれ燃えるキャンドルロードの続きみたいに見える。
…項目分けちゃいましたけど、良いですかね。
祭りだからはっちゃけた現代転生パラレルin十勇士ですが、普段書いているテキストとは分けてお考えください。
設定を全く考えず、ノリだけで書きましたので…。
そしてハロウィンに続きまたやっちゃった甘いやつ。
「クリスマスイブはやっぱ二人きりでしょ」と思った方はレッツスクロール。
佐幸です。…佐幸のつもりで書いていますが、幸村が男前なせいで幸佐に見えるかもしれません。
リバ風味が苦手な方は回れ右を推奨いたします。
甘いの平気だぜ☆リバ風味でも気にしないぜ☆ほんのり破廉恥でもどんとこい☆という心の広い方は、下で邪魔な面々を酔い潰して貰ってからお進みください。
幸村に佐助以外を酔い潰して貰う。