初めてあの赤サンタを見た時のことは自分でも可笑しいくらい鮮明に覚えている。
自分の担当地区の赤サンタが新しい担当に変わったと聞いて、ただの確認作業のつもりでその姿を見に行っただけだった。しかも仕事のついでに顔だけでも確認しとこうかな、くらいの軽い気持ちで。
自分の仕事のルートと新任赤サンタが通るであろう予測ルートをわずかに被らせて、向こうからはこちらの姿が見えないくらいの距離で、ただ見るだけ。本当にどうでも良いものを確認するような、いい加減な気持ちだった。
けれど実際行ってみると笑ってしまう。
黒サンタの中でも随一と言われるほどの実力をもった己の目をもってしても、動きを追うだけで精一杯の赤い物体。
それが新任赤サンタだと気づくまでに若干時間を要し、見間違いかと思ってもう一度確認しようにも既にその姿はなかった。
『…マジで?』
それがあの赤サンタの第一印象。
忘れようにも忘れられない強烈な印象を残してくれたせいで、己の興味は面白いほど傾いた。
そしてその次の年。
さすがに二度目とあって、その年は残影だけを目にする、なんて不甲斐無い結果で終わるはずもなく。佐助は持前の俊足を活かして件の超速ソリへと単身乗り込んだ。
まともに人の形をした状態の赤サンタを見るのはそれが初めてで、その時の印象は“若いな”だった。
名前も年齢も既に調べてあったからある程度は予想していたというのに、やはり感じたのは実力に見合わない若さだった。
しかし印象云々の前に、弾丸のようなスピードで爆走するトナカイ達の手綱を完璧に捌いているその腕前に目を奪われた。就く仕事を間違えたんじゃないのアンタ、とすら思えるほどの見事な手綱捌き。それなりの数の赤サンタを見てきたけれど、ここまでぶっ飛んだ実力をもったやつは見たことがない。それくらい凄い手綱捌きだった。
…けれど次の瞬間、いつの間にか乗っている佐助に驚いたせいで手綱を放す、なんて失態を犯して大事故になりかけたが。
具体的に言うと、新任赤サンタの幸村とそのトナカイの両方が驚いたせいでソリが大きく揺れて、あろうことがソリから幸村だけが投げ出される、なんていう事態が起こってしまったのだ。
もちろん原因は佐助の無断乗車なので、きっちり幸村も助けてトナカイも落ち着かせたけれども。
そんなこんなで緊迫感たっぷりの顔合わせとなり、(佐助が悪くても)幸村を助けたことでトナカイにも懐かれ二度目のイブが終わりを告げた。
それから三度。
幸村と話をしながら仕事場に向かったイブは、三度あった。
つまり、三年経った。
話せば話すほど面白い人で、やってることは常識からぶっ飛んでるのに仕事は真面目。絵に描いたような赤サンタの仕事ぶりが面白くて、何故か毎年会いに行ってしまった。
…それも、担当地区変えの話を無理やり断ってまで。
シワ寄せは仕事量となって己に跳ね返ってきたが、一年に一度の楽しみとを天秤に掛けたら傾いたのは楽しみの方だっただけの話だ。
流石にデスクワークまで増やされたのには体を休める時間がどんどん削られていってしまったが、ここで折れるのも癪なので涼しい顔でこなしてやっている。
全部己の楽しみのためなのだから、文句なんてない。文句なんてないけれど、流石にイブから後のあの膨大な事後処理には舌を巻いた。
黒サンタの仕事の性質上怪我人が出るのは毎年のことだが、怪我で仕事場に出てこれなくなった奴らの分までカバーするのはいくらなんでも手が足りない。
只でさえ佐助の担当区域は広すぎる。それに加えて他の区域の仕事まで手伝うことなど物理的に無理な話だ。
しかしそれでもその無理な話は佐助のもとへやってきた。
疲労以外の意味でぴんぴんしている黒サンタなんて数えるほどしかいない中、そいつに仕事を回さないという選択肢は上にはなかったらしい。
そんな理由で佐助の年越しは悲惨なものとなった。
幸村に会いたくとも周囲に赤サンタの鈴のことを隠しているため鳴らすわけにはいかない。鳴らすにはせめて黒サンタに目撃されない場所にしようと思っていたのに、まず黒サンタの詰め所から出られない。仕事から折を見て抜け出してやろうと思っていても、上からの監視が厳しくてそれもかなわない。
八方塞がりだ。
一人悶々と悩みつつ仕事を必死に片付けているうちに、ひと月近くも経過してしまったわけだ。
畜生、会いたいな。
遠い一年先を馬鹿みたいに待たなくてもよくなったのに、結局まだ一度も会えていない。
次会った時に飯を奢ってくれるという話になってるのに。
腹減った。眠い。疲れた。
会いたいな。
疲労も極限に達したかと思った時に、その声は聞こえた。
『佐助は、……、…』
明らかに誰かと話している最中に単語として出てきた風な声だった。
佐助に呼び掛けているという意図はなかったのだろう。それは理解できた。
…理解できたが、無視した。
自分に都合の良い解釈だとは思ったが、名前は実際呼ばれたのだから問題はない。書類に埋もれた己の席から立ち上がった瞬間何人かに呼び止められた気がするが、そんなものは笑って聞き流してやった。
そういえば“佐助”の名前を呼べる相手ができたことを上に報告していなかったか、仕事の忙殺されてついうっかり忘れていたことをその時になって思い出したがもう遅かった。
佐助の体はその場から一瞬にして消えた。
赤と黒の交流
世間一般では相容れないものとして認識されている、赤と黒のサンタ。
…だというのに、赤サンタの詰所の仮眠室で眠る黒サンタ。
あまりにもシュールだ。
どうやら幸村に呼ばれたから、という理由で仕事場から本当にそのままやってきてしまったらしく、眠る佐助の恰好は黒サンタの仕事着である黒一色だ。
変わった色合いの髪だけが鮮やかな印象を与えているが、いつも顔を合わせる際の黒の印象が強いため、佐助のイメージは黒から離れない。
だから今、白いシーツと赤い毛布に包まって寝入っている様子が妙に可笑しく思えて仕方がなかった。
赤と白と黒。
そういえばイブの夜に集まる色も、この取り合わせだったか。
そんな考えを巡らせつつ佐助の顔を見れば、肌の色とは別に明らかに困った色合いのものが眼の下あたりにのってしまっている。
「やはりすごい隈だな…」
整った顔立ちをしているのは知っていたが、今はその顔も残念な印象を与えてしまうほどに目の下の隈がかなりひどい。佐助と一旦別れたイブの夜にも思ったことだが、この男は働き過ぎだ。
「全く…倒れるまで仕事させるとは一体どうなっておるのだ黒サンタは。一介の赤サンタの俺が進言しても取り合ってはもらえぬかもしれんが、管理職の誰かに協力さえしてもらえばどうにか…」
ブツブツと小言めいた文句を呟いていれば、その声に反応したのか佐助の瞼が僅かに動いた。この男が寝入ってからまだ数時間しか経っていないのだからと眠りは深いと思って油断していたが、思いのほか繊細な神経の持ち主だったらしい。
しまったな、もう少し寝かせてやりたかったというのに。
心中でそっと悔やんでみるが、佐助はすでに眠りから覚めてしまったようで、ゆっくりと両の瞼が持ち上がってゆく。
ゆるりと彷徨った視線が幸村へと合わされ、そのままぼんやりとした佐助の目と暫しかち合った。
「あれ…旦那」
「ああ佐助、目が覚めたか?気分はどうだ?まだ辛いか?」
「えっと…あれ、旦那?」
佐助はどうやらまだ半覚醒のようで、幸村を見てぼんやりと瞬きを繰り返している。
そりゃああれだけ疲労をため込んでいて、ほんの数時間の睡眠で疲れがとれるはずもないから無理はないか、そう思った瞬間だった。
突然跳ね起きた佐助。
「やっべ俺仕事…っ!今何時?!ノルマ!手帳!次のリスト!!」
がばりと起き上がりながら叫んだ佐助は、ベッドサイドに畳まれた自分の黒上着をおもむろに掴み、妙にあわてながら身支度を始めた。
「待て佐助、お前どこへ行く気だ?!」
「どこって仕事!やばいよ俺様何で寝こけてんの?!よりによって何でこの日?!せめて寝るならイブ以外だろうが俺!!ああもうっ最悪だ!!」
「は…?イブ??」
佐助の言った言葉を理解するまで少し時間がかかったが、それでもわかった。…佐助の重大な勘違いが。
「待て待て待て待て待てっ!!」
ブーツに足を突っ込んで飛び出していこうとしている佐助をあわてて引き止め、掴んだその勢いでベットに再度転がしてやった。それでもまだじたばたもがいて起き上ろうとするものだから、頭をがっしと掴んで枕へ軽く抑え込んでやる。
体の構造上、頭を抑えられると人は簡単に起き上がれるものではない。
それにまず、身のこなしの軽やかな佐助が幸村に簡単に投げ飛ばされているということは、やはり体は本調子ではないようだ。
「落ち着け佐助。…そして安心しろ、イブの夜はとっくの昔の終わってる。お前はちゃんと仕事もこなしたぞ」
「…へ?」
「とりあえず目を覚ませ。そして思い出せ。ここはどこだ?」
「えっと、あれ…?」
何かがおかしいということには気づいたのか、佐助は動きを止めて考えこんだ。
思考は一瞬だったのだろう。天井の柄も場所の空気も傍にいる存在もいつもと違うのだから、気づく手がかりには事欠かないはずだ。一瞬でここに至るまでの経緯を思い出したのか、佐助は両の手で顔を覆い隠した。
「あ〜〜〜…、っ」
顔を覆うだけでは飽き足らず、さっきまで被っていた毛布も引っ張り上げ、佐助は体もどんどん縮こめていった。どうやら恥ずかしかったらしい。
「…まったく、『俺=イブ=仕事』という腹立たしい思考回路を今すぐ消してしまえ。むしろ別の何かで上書きしろ」
「なんてーか、もうすんません…。ぶっ倒れるだけでも情けないのに、おまけに寝ぼけるとか無いわー俺様。情けないわ恥ずかしいわで良いとこ無しじゃないの」
佐助は毛布に頭まで埋もれたままの状態でそんなことを言っているが、別に情けないとは思わない。
ただ少し面白いだけだ。
「何、いつも飄々としているお前の違う面を見れて良かったと思うぞ?食えないやつだと思っていたが、中々可愛げもあるじゃないか」
「いや、可愛げとか嬉しくないって…」
げんなりした表情で身を起し、佐助はがしがしと頭を掻いている。
少々顔が赤い気がするか、もともと顔色が良くなかったところに血色が戻ったということにしておいてやろう。
「ふむ、顔色も少しはましになったな。隈は消えておらんが多少は頭もすっきりしただろう?」
「お陰様でね。あの室長さんにもお礼言わないとなぁ…。それに黒の俺がいきなり来ちまったせいで何だか妙に騒がせたようだし」
「それなら気にするな。他の連中もお前のことは心配していた」
「はは、赤サンタの皆さんはやっぱりそういうお人柄なのかね。なんてーか調子が狂うよ」
佐助がそう言って肩をすくめたところで、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
誰かが佐助の様子でも見に来たのだろうかと幸村が返事をすれば、どかどかとうるさい足音で人が入ってくる。
こんな足音を立てるものなどいただろうか。そう幸村か首を傾げたところでその足音の主が目に入った。
「………っ!!!」
思わず椅子を蹴倒して立ち上がる。
しかし体は動かない。というか直立不動の姿勢を体が無意識のうちにとってしまい、その姿勢を崩せない。
「お、お、おやっおおおやっ」
己の口が誰かの呼称を形作ろうとしているようだが、それも上手く声にならない。
何故ここにこのお方がいる。
どうして。
何で。
頭が真っ白になりかけたところで、己の後ろからまさかの声が上がった。
「た、大将…?!」
「ふむ、黒サンタが倒れてここの仮眠室で休んでいると聞いたものでな。誰かと思えばお主か佐助」
なんだ?この二人は知り合いなのか?
俺を差し置いて会話を始めるとはうらやましい奴め佐助。
いやいやいやそうじゃない。まずどうしてここへ、このお方が。
己の師が。
今は一線を退いてはいるが、伝説級のサンタであるこのお方がどうしてここにいるのだ。
「おっおやっ、なっさす…」
ぱくぱくと言葉をうまく発せない幸村を余所に、会話はどんどん進んでいく。
「うわぁ…情けないとこ見られちまいましたね。すんません、ちょっと不摂生しすぎたみたいでして」
「まぁお主の仕事量ならそれも無理はないじゃろうがのう…しかし、どうやってここへ来た?如何にお主であろうと今の時期の黒の詰め所から抜け出すのは容易ではなかろう」
「えっと、まぁそれはですね…」
そこで詰まった佐助が、ちらりと幸村へ視線を流した。何かを言いたげに困ったような顔で頬を掻いている。
「佐助?」
佐助の表情につられて思わず幸村も首をかしげてみたが、それどころではない。
今幸村のすぐそばにあのお館様がいるのだ。
「おおおおおおおお館様ぁぁぁあっ」
「ぬおう幸村ぁぁぁぁぁっ」
腹の底から声を出せば、相変わらず師からも打てば響くような声が返ってくる。
魂の底から揺さぶられそうになるほどの大音声だ。
「お久しゅうございますお館様ぁっ」
「うむ!お主も元気そうで何よりじゃっ」
「お館様ぁぁっ」
「幸村ぁぁぁっ」
「ぅおやかたさまぁぁぁっ」
「ぃゆきむらぁぁぁぁっ」
「や、あのちょっと待って。何このやり取り?会話しようね。会話を」
「「む」」
ついいつもの調子で熱い拳を交わそうと力んでしまったが、確かにここはそんなことをやる場所ではない。
佐助も元気とは言い難い体調のようだし、気遣ってやらなければいけないだろう。
「すまん佐助。お前のことを忘れていた」
「さらっと酷いこと言うのもやめようね。旦那が言うと余計に酷い言葉に聞こえるから」
「むっ…す、すまぬ」
佐助に向かって思わず頭を下げれば、今のやり取りが面白かったのか、師が急に笑い声を上げ始めた。
「ふむ、なるほどな。合点が行ったぞぃ。あのお主が己の名をなぁ…ほほう…」
どうやら佐助に対して思うところがあるらしく、にやにやと楽しげに佐助を眺めている。
「…ご納得いただけたなら、まぁ良いんですけどね」
「いやいや。お主はなかなか人を見る目があるぞい。この幸村は儂の愛弟子でな」
「!」
良くわからぬがとりあえず褒められたのだとわかり、師へとくるりと向き直ればわしわしと大きな手で頭をなでられた。首がもげそうだ。
子ども扱いをされているような気もするが、そんなもの関係ない。
褒められたのだ、うれしくないはずがない。
「旦那めちゃくちゃよろこんでますけど」
「素直なのは良いことじゃ。少しはお主も見習わぬか」
「はぁ、まぁそれは追々に…。それよか大将、俺の名前のことなんですけど…」
「分かっておる」
佐助の言葉を途中で遮った師は、幸村の頭から手を放すと後ろに控えていた部下を呼びつけた。
「山県、問題になる前に適当に受理しておけ」
「はい。判さえいただければ」
「ほい」
懐から無造作に出された判が、これまた無造作な仕草でぽんと押される。
「ふむ、佐助よ。受理はしておいたぞ…届けはまだ貰っていなかったがまあいいじゃろうて」
「いやぁどうも!ほんとにありがたい!」
幸村には詳しい事情はわからないが、どうやら佐助が教えてくれた名前について何らかの書類が必要だったらしい。赤サンタの方も鈴の譲渡についての報告が必要なくらいだから、黒サンタにも色々あるのだろう。
「ふむ、では儂はそろそろ行くかの」
「…!!」
まだここへいらっしゃったばかりではありませんか!と口にしようとしたが、相手は多忙を極める立場にある人だ。そんな我が儘を言えるわけがない。
しかしそんな幸村の心中など駄々漏れだったようで、師は苦笑しながらもこう言ってくれた。
「そんな顔をせずとも近いうちに遊びに来ればよい。クリスマスも正月も過ぎてはサンタもしばらく暇ができよう」
久々に揉んでやるわい。
にやりと好戦的な笑みで続けられた言葉に、己の顔にも似たような笑みが昇るのがわかった。
「その際は是非お手合わせを…!」
「うむ、待っておるぞ」
見送りは不要だと身振りで制し、ひらひらと手を振って去っていく姿は絵になることこの上ない。
「流石はお館様…!!」
自分でも何に感動しているかわからなかったが、それでも師の姿絵になることには変わりがない。
やはりお館様は格好いい。そうやって己の考えに納得していると、佐助の苦笑めいた声が後ろから響いてきた。
「はは…あんたがあの人の弟子だったとはね。流石にそれは知らなかったよ」
「そういうお前こそお館様と親しげな様子だったではないか」
「いやいや親しげってのは言い過ぎだって。俺はまぁ…仕事でいろいろ世話になったというか、(訳有りの)仕事を回されてるというか…扱き使われてるっていうか…」
「段々マイナスイメージの言葉に変わってきてるぞ」
「う…まぁあの人は黒の統括もやってるから色々世話になってるんだよ」
「ふーむ?」
まだ疑問は残っているものの、こんなところで立ち話というのも何だ。まだまだ時間はあるのだから、ずっと約束していた食事でも食べながらにすれば良い。
そこまで幸村が考えたところで、ころ合いでも見計らっていたように腹の虫が騒ぎ出した。
よく考えたらばたばたしていたせいで昼食すらまだ食べていない。
「佐助、腹は減っているか?」
「うん」
きっぱりとした答えが返ってきたことにほっとして、窓の外へと目を向ける。
夕方と言い表すには早い時間だが、雪の深いこの地では日照時間が短い。すでに空は茜色をしていて、街へ下りる支度をしているうちに日が暮れるだろう。
「……。」
ちらりと佐助の様子を伺えば、顔色は確かに良くなってはいるが、それでもまだ万全の状態ではなさそうだ。
この寒い冬空の下を連れ歩くには少々不安が残る。
「佐助、奢ると約束していた飯だがな」
「うん?」
外に食べに行く以外でこのすきっ腹を満たせる場所。
思い当たる選択肢としては一つしかない。
「とりあえず今日のところはここの食堂で許せ」
うまいぞ、っと笑って佐助の頭をぽんぽんと叩けば、佐助もくしゃりと顔を綻ばせた。
「んじゃ、御馳走になりますかね」
妥協案にも快くうなずいた佐助が待ちかねたように立ち上がる。多少落胆はさせるかと思っていたが、それなりに楽しみにしてくれているらしい。
イブ以外でこの男と顔を合わせるのは今日が初めてで、食事を一緒に摂るなんてことも初めてだ。
その最初の一歩が仕事場の食堂で食事、なんていう面白みのないものだとしても、この男と話せるならそれも面白いものとなるだろう。
「では行くか」
己の後ろで「はいよ」と答えてついてくる足音に、自然と笑みがこぼれた。
きっとこの後の食事は楽しいものになるのだろう。そんな確信めいたものが胸の内に満ちる。
ハプニングから始まった再会ではあったけれど、初めての食事の思い出としては上々のものを残してやろうと一人決意した。
そしてそれをこれから重ねていければいいと思う。
もうイブに会うだけの、一年に一度の薄い関係ではないのだから。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
詰め込み過ぎた…。
その一言に尽きますが、完結です。
時季外れにもほどがある。しかしお祭りテキストなので別の意味で開き直りました。
一応サンタは人って括りに入っていない設定で書いてしましたが、文章の都合上『人間』とか『人』って表現使わせてもらってます。
うん、サンタさんだって人型だ。
細かい設定とかは実は考えていないノリだけのテキストのため、矛盾点があったら申し訳ありません。
しかし、一年以上前のサンタのテキストを覚えていて下さっているのは驚きでした。
続きを書くのは楽しい作業だったので、コメントくださったすももさんに感謝です。
(10.5.4 朱美 拝)