カチコチとテンポ良く刻まれる時計の音がやけに大きく響き、この部屋がやたらと静かなことに気付く。
テレビは特に見たい番組も無かったので消したまま。
申し訳程度に膝の上で開いていた書物をぱたりと閉じると、背もたれにしていたソファーの上で、ゆったり目を閉じたまま寝入る男へ目を遣った。
規則正しく上下する胸、すぅすぅと心地良さ気な寝息。
伏せられたままの瞼の下には闇をも見通す炯眼が潜んでいるはずだが、閉じたままでの今はその色も見ることは叶わない。
変わりに縁取られた睫に目をやる。
髪の色に准じてその色は明るく、茶に近い。ぱっと見黒にも見えるが、灯りの下で見ると差は明らかだ。
通った鼻梁と頬にあの馴染み深い忍び化粧は既になく、また傷も無い。
唇は冬の寒さに少し荒れているようで、カサついているようだ。
リップクリームなんて気の利いたものなど持っていない幸村にはどうにも出来ないが、目の前で寝入るこの男ならもしかしたら一つや二つ持っているかもしれない。
後で「塗っておけ」と言おう。そう思ってまた男へ目を戻す。
何をするでもなく部屋で寛いでいる時に、この男はたまに転寝することがある。
会話があれば流石にそんなことにはならないが、心地よい沈黙の中でぱらりと書でも捲っていれば、幸村からそう遠くない場所、もしくはすぐ傍でゴロリと横になり、数分もせぬうちに寝息を立て始める。
幸村はこの男が良く眠る人間だという事を、ずっと知らなかった。否、…知られないようにこの男が、佐助が気を配っていたのだ。
今がもし戦国の世なら、このような姿は絶対見せはしなかっただろう。
しかし、今現在こうやって生きているぬるま湯のように平和な現代ではそんなことにこだわる必要は無い。
その辺から武器が飛んでくるようなことなんてあり得ないし、第一そんな身分は一つ前の生へ置いてきてしまった。
だからこんな風にかつての主の前だろうと、くーすか寝息を立ててもいいのである。
それに、幸村としては佐助のこの変化が嬉しかった。
いい加減に見えて実は結構そういう線引きに律儀なこの忍は、幸村の前で寝入ったことなど無かった。
薬や負傷のせいで意識を飛ばしたことはあれど、疲労や気の緩みによる転寝などは絶対に無かったのだ。
昔一度あった騒動の時に、薬のせいで思うように動かぬ体を懸命に制御し、普段通りの装いを取り繕おうとしている様は中々可愛らしく映ったものだが、幸村としては今のこの無防備な態度の方がずっと嬉しい。
思わずくすりと笑ってしまう。
零れ落ちた笑みとともにゆったりと手を伸ばすと、昔と変わらず明るい色の髪にそっと触れた。
触れた瞬間、瞼がぴくりと動いた気がしたが、しばらく触っていても目を開く様子が無いので、起きる必要が無いと思ったのだろう。
穏やかな呼吸と寝顔はさっきと変らない。
けれど今、もし幸村が「さすけ」と声に出して呼べば、眠っていたのが嘘のようにぱちりと目を開けてしまうのだ。
動くなといえば動かないし、寝ていろと言えば寝ているはず。
そして起きろと言えばすぐさま身を起こす。
主従という枠組みの無くなった今でも、この男は幸村の言葉に酷く従順だ。
今更直そうとしても直らないらしく、その上直す気もないらしい。どうにか出来ないのかと聞けば「そういう風に出来ちゃってるの」と言っていた。
それはそれで寂しいものだと感じたが、同時に何故か嬉しくもあった。
一度生を終えても、この男は未だに幸村のものなのだ。
ただ漠然とそう思う。
これは驕りでも勘違いでも何でもなく、揺るぎようの無い只の事実。
所有物というのは変な表現だし、しっくりこない。
だから、俺のもの。
装飾も比喩も必要としない簡単な言葉だ。
等しく友人として接したい気持ちもあるし、過去に縛られず自由に生きて欲しいという思いもある。
けれどこの男は昔と同じように傍でへらりと笑い、昔と同じように世話を焼く。
世話を焼く、ということに関しては幸村が色々やらかすのが原因かもしれないが、それでも関係性は昔とあまり変わっていない。
「あるのはこんな些細な変化だけ…」
ため息とともにそう呟いて、くーすか寝入る男の顔を眺めた。
何とはなしに絡ませたままにしていた指を髪からほどいて、今度は頬を指の背で撫ぜた。
気持ち良さ気に寝ているくせに、その感触はどうにもひやりと冷たい。
二三度その動作を繰り返し、撫ぜる指を目元に移し、開かぬ瞼の上に掌を乗せる。
遠慮なく触っているというのに、佐助は起きようとしない。
初めから深く寝入っていないのは分かっていたが、これだけ触れられれば煩わしくて文句の一つや二つ言うのがこの男の常だ。
けれど起きないのは、ただの意地か。それとも手の感触が気持ち良いのか。
幸村にはよく分からない。
知りたければ起こして聞けば良いのだが、このまま好きに眠らせてやりたかった。
こうやって好き勝手この男に触るのは嫌いではないのだ。
目隠しのように置いた手を目元から放すと、こめかみ付近から髪を梳くように手を差し入れた。
柔らかくはない髪質だが、癖は無いので指通りは良い。
根元から外側に指を滑らせれば、毛先にゆくほど冷たくなってゆく。
そんなに髪は長い方でも無いのに、少し体から遠ざかれば熱はすぐに逃げてしまう。
こいつの寒がりは体だけで無く髪もなのか。
そう思って今度は首に触れた。
流石にここは暖かい。
…当たり前だが。
しかし耳は冷たい。どれだけ冷え性なのだろうか。
「ふむ」
とりあえず考えこむ。
冷たければ温めたくなるのが人の性。
けれどどうやって。
しばし黙考すると、まずは冬によくやる仕草からやってみることにした。
くたりと力なく投げ出されたままの手を取り、力を入れすぎないように握る。
思ったとおり氷のように冷たい。
しばらく己の熱を移すように握り続けた。
じわじわと熱が移り、徐々に指先に色が戻ってくる。
指を絡ませるように手を握ると、指の間の冷気も熱に変わってゆく。反対側の手も同じように温める。
仕上げに手を口元まで持ち上げて、はぁと息を吹きかけた。
するとぴくりと手が動いた。気をつけて見ていなければ分からない程の動きだが、確かに動いた。
驚いたのかくすぐったかったのか、それとも他の何かかは分からないが、ここまでやっても目を開ける気は無いらしい。
ゆったりと伏せられた瞼は無理やり閉じているようにも見えず、ただの何の変哲も無い寝顔だ。
下手すれば夢でも見ていそうな顔にも見える。そんな気持ち良さ気な寝顔が少し面白くない。
何か度肝を抜いてやるような良い方法は無いだろうか。
握ったままの手はそのままに、またも黙考する。
こちょこちょは?駄目だ、佐助には効かない。
一発ぶん殴って…、駄目だ起きるに決まっている。それ以前に人間として駄目だ。
破裂音を鳴らすというのは?飛び起きる可能性大だ。でもどうやって…?
「………」
考えているうちにぐるぐるしてきてしまった。
ついでに行き詰っている。
無意識にやっていることではよく佐助を驚かせているはずなのに、意識的に驚かそうとするといつも失敗するのは何故だろう。
幸村は思考に没頭した。
とりあえず考えて考えて考えまくる。
けれど佐助を温めるという作業は止めない。
握ったままだった両手のうち、片方を元に戻して、残った方の手首をつかむ。
指先の方は温かくなったけれど、手首はまだ少し冷たい。
しばらく手首を握っていると、また徐々に温まってくる。しかしそうしているうちに指先が冷たくなってきてしまった。
まどろっこしい。
手っ取り早く同時に温めようと、特に深く考えずに佐助の手を持ち上げて己の首元に押しつけた。
太い血管が多数通るこの部位は手先よりずっと暖かい。
ただそれだけのことだったのだ。
けれど、頚動脈付近に佐助の冷えた手を触れさせた瞬間、さっきまで頑なに閉じたままだった目が開き、ひくりと体を硬く強張らせた。
「…こんなことで起きるな馬鹿者」
「あー…いや、うん」
返された答えは、歯切れは悪いながらもやはり覚醒した人間の声だった。
ずっとただ目を閉じていただけのようだ。
「まだ、苦手のようだな」
俺の急所に触れるのは。そう続けると「そりゃあこれは流石にね」と情けない顔で答えが返ってきた。
「抜き身の刃を突き付けている訳でもあるまい。…お前は過敏になり過ぎではないか?」
「や、でも首なんて刃物無くても指一本ありゃいくらでも手はあるし…」
そう言って首から手を放そうとする佐助の手を、がっちりと掴みなおして首に押しつける。
背筋がぞくりとするほど冷たい。
「こんな冷たい手をしているのに放すか。せめて人並みの体温に戻してから逃げぬか」
「んー…んじゃ」
そう言って佐助は、空いている方の手で同じく空いている幸村の手を取った。
触れる面積をなるべく多くするようにぎゅっと握ると、ほう、と息が吐かれる。
「あーやっぱあったけー…」
「お前な…俺で暖とるくらいならこんなところで転寝せずに風呂入ってすぐ部屋に戻って布団に入れば良いのだ」
説教じみた言葉を掛ければ「それじゃダメ」という我儘みたいな答えが返ってくる。
何が駄目なのか。
「俺より湯の方がはるかに温かいぞ?」
「温度はね。でもこっちのがあったけーの」
「何だそれは」
「冷え切った忍に効く特効薬」
「な…何だそれは」
「とりあえずあったけーの」
「まぁ…良くわからぬがとりあえず分かった。俺が好き勝手していたのに全く起きなかったのはそのせいか?」
「途中からはそう、かな」
「初めは?」
問いかけると、佐助は反動もつけずにゆったりと身を起こした。
さっきまで見下ろしていた顔が同じ高さにくる。
「初めは視線がザクザク刺さって痛くてねー。いつ起きようかって苦悩してたのよ」
「あー…、その…すまん」
つまり初めっから寝てはいなかったということらしいが、それよりもだ。
確かその時は目が見たいとか、この男は俺のだ、とか結構自分勝手なこと考えていた気がする。
そりゃあ視線も刺さる。
「何考えてたの?」
「…ぐっ」
今の頭の中をのぞかれたのかと思い、思わず詰まる。
「今更俺様の寝顔なんて珍しくないでしょ?今は結構あんたの前で寝てるし」
「いや、珍しい」
素直に返せば佐助がきょとんとした顔になった。
こういう顔も珍しい。
「そんな変な寝顔だった…?」
「いや?男前だったぞ」
「そりゃ、どーも…」
こちらは結構真面目に返したというのに、佐助は顔を伏せて黙りこくってしまった。
幸村が好き勝手触ったせいで乱れてしまった髪がふわりと揺れている。
明るい色の髪が部屋の緩い照明に照らされて揺れるのは実は結構好きだった。
それを今口に上らせればどうなるだろう、そう思って不意に気がついた。
照れているのか。
すとんと落ちるように納得してしまった。
佐助の表情は分かりにくく、顔色も変わらないから感情の変化は表面だけ見ていてはうまく読み取れない。
昔からこういう心の機微に疎い幸村だが、一回死んだ分を加えて年齢を数えれば三十路はとうに超えている。
年をくった分こういうところは成長したと真面目に誇れる部分だ。
「目が見たいと思っていた」
「何?」
唐突にそう言えば、何のことか理解できないといった表情で佐助が顔を上げた。
その顔に微笑で答えると、未だに首の位置にあった佐助の手を膝もとへ下した。
照れたせいなのか、それとも首の熱を移したせいなのか、それとも両方なのか。佐助の手は人並みの体温に戻っていた。
それに安堵して手を放す。
間に留まっていた熱が逃げたせいで、冷えた空気がことさら冷たく感じたけれど、もともとこれくらいの冷気は幸村には問題ない。
「顔に傷も無い」
そう言って頬に手を伸ばす。
昔は目立たない小さな傷跡がいくつもあった。
耳の後ろ、頬、こめかみ、眉尻。
どれもこれも刃物で斬られたような傷跡で、深くはないけれど出血はある程度あったと分かるほどのものだった。
紙一重で避けたのか、深手にならぬと悟って甘んじて受けたのか。
どちらにせよ気持ち良いものではない。
それを思い起こすように忍化粧をのせていた位置辺りを指の背で撫ぜれば、くすぐったそうに佐助の目が細められた。
こういう仕草は動物っぽくて面白い。
「あとリップクリームを塗っておけ」
「はぁ?」
大人しかった佐助もこれには間抜けな声を上げた。
確かにいきなりこれでは意味が分からない。
説明しなければ。
そう思って頬辺りを撫ぜていた手を佐助の口元に移動させると、下唇を親指で辿った。
「少し荒れている。痛そうだ」
そう言って手を放すと、しばし固まった佐助は、突然糸が切れたように崩れ落ち、ソファーの背もたれにばしんっと額を打ちつけてそのまま動かなくなってしまった。
「さ…佐助?!」
佐助にしては珍しい奇行に思わず名を呼んでしまう。
一体今のは何だ。
しかも現在進行形でおかしい。
顔は背もたれに伏せられたまま動かないし、手は上等な革張りの生地をぎゅううぅぅううと握りしめている。
そんなに握ったらいくら革でも皺が残るかもしれない。
「佐助、手の力を抜け。この家の家具はお館様のだぞっ」
慌てて言えば僅かに皺が薄くなる。
力を弱めたようだった。
そして低い声で何かを呟いた。
「天然ジゴロめ…」
いくらか昔より語彙の増えた幸村でも、佐助のこの言葉の意味は流石に分らなかった。
天然は分かった。しかしジゴロって何だ?
首を傾げても誰も教えてはくれない。
明日学校に行ったら誰かに聞けばいいだろう。今佐助に聞いても絶対に教えてくれる気がしない。
そう自分を納得させて、とりあえず目の前の問題へとりかかる。
「お前大丈夫か…?」
「大丈夫じゃないです」
「どの辺が悪いのだ」
「えっと…心臓?」
「しっ心臓?!」
「あと、頭とか…?」
「あ、頭っ?!」
どちらもやばい部位に値する。
そこに異常を来たしたとなると、こんな風に悠長にしゃべっている場合では無い。
「いっ医者を呼ぶか?」
「や、いらないから」
「馬鹿者!こんな時に遠慮している場合か!」
「遠慮じゃないっての」
「では何だというのだ!心臓と頭が悪いのだろう?!はっ?!まさかさっきのジゴロというのは何かの病原菌の名か?!」
「いやいやいやいや全っ然違うから」
「では何かの発作の名か?!」
「それ違います」
「では何なのだ!」
「とりあえずジゴロと病気を関連付けるの止めようよ…」
「ではどうしろと?!」
「どうしろって言われても…」
「そうだ、薬!ええと常備薬は…」
「………」
薬箱を取りに行くために慌てて立ち上がると、手を掴まれてぐんと引かれた。
「うお?!」
バランスを崩して今まで座っていたソファへ逆戻りすれば、すぐ目の前に佐助が居て。
「すぐ戻るから手を放せっ」
掴まれた手を振りほどこうと腕を振ると、嫌だとでも言うように力が込められた。
そしてそのまま引き寄せられる。
「佐助?」
乱暴と言えば乱暴な仕草だったが、この男が幸村に危害を加えるような真似をするはずがない。
痛くはない強さで引き寄せられた体は、とんと軽く佐助にぶつかって止まった。
明るい髪が幸村の肩口で揺れている。
「佐助っ薬を、」
「いらない」
問えば間髪入れず返ってきた。
簡潔で分かりやすい答えだが、なんの解決にも至っていない。
「佐助、お前心臓と頭の具合が悪いと今さっき申したではないか…」
顔色は特に悪くはなかった。
目の焦点もおかしくはなかった。
変なところと言えば態度くらいしか思いつかないが、大丈夫じゃないと言われたのは事実。
それなら何か治療をしなければ、心臓や頭など放っておいて良いものではない。
そうでないと、また、己は。
この男を、失ってしまう。
「さ、」
「少し…このままで」
頭から血の気が引いて、もう一度医者を呼ぼうと言いかけたところで佐助がそんなことを言った。
このままと言うのは、この体勢のことなのだろうか。
恐慌状態になりかけていた頭では思考が上手く働いてくれない。
「このまま…?」
「そ、このまま」
「だが…」
やはりそれでも何の解決にもならないのでは?
そう思って躊躇すると、掴まれた腕に入っている力がまた強められた。
「佐助?」
「特効薬って言ったでしょ」
言われた言葉にきょとんとなってしまった。
そう言えばさっきそんな言葉を聞いた気がする。
確か、冷えに効くとかどうとか。
「お前…寒いのか?」
「旦那あったけー」
「いや、そうじゃなくてだな。…お前は寒いと頭やら心臓やらが悪くなるのか?」
「それじゃ毎年冬が来るたびに俺様死にかけるじゃないの」
笑い交じりの軽口が少し面白くない。
こちらはこれ以上無いほど真剣に、佐助を本気で心配しているのだから。
「一体何だと言うのだ…」
僅かに苛立った胸の内を宥めるように溜息を吐くと、肩口の髪がふわりと揺れた。
それと同時に溶け合い始めた体温にも気付く。
こちらよりずっと低いはずの体温が、触れたところだけ心地よい温かさを伝えてくる。
人肌が心地よいというのは本当のことらしい。
だから佐助はこんな風にくっついてきたのだろうか。
特効薬というからには、こうすることで何かしら良いことが起こるはずなのだが。
「闇でも疼いたのか…?」
可能性の一つとして無いとも言い切れないことをぽつりと呟く。
最近ではもう無くなったことだが、数年前までこの男は何かと一人で姿を消してしまうことがあった。
数分で返ってくることもあれば数日たっても戻ってこないこともあり、何処へ行っていたのか聞いても答えてはくれない。
しかし決まって、戻ってきた時は深淵を覗いたような、闇のように真っ暗な目をしていたのだった。
そういう時は幸村が傍にいれば次の日にはけろりとしていた。
しかし原因は分からない。
…分からないが、今は何となく想像できる。
あくまで仮説だけれど、昔の、それこそ百年単位で昔の、この男の性が原因ではないのだろうか。
忍の深く険しい業の闇。
一度死してなお、消えぬそれ。
その身に宿した闇が、未だに疼くのだ。
属性は真逆であれど、幸村も炎を宿す身だから分からなくはない。
人の身で御するには過ぎた力だ。
だから今回も、それに近いものかと思ったのだが。
「んーまぁそんな感じ」
返ってきたのは誠意の欠片もない言葉で。
「はっきりせぬ奴だな…っ」
「言葉で表せないからだってば。でもまぁ疼くっていったら疼くだからもうそれでいいんじゃないの」
「またそう投げやりな…」
「良ーんだよ、特効薬ってのはホントなんだから」
「何に効くのか全くわからん」
「冷え切った忍に効くんです」
「それはさっきも聞いたぞ!」
思わず声を荒げれば、肩口でからからと楽しげな声が上がった。
本当に効果があるのかは半信半疑だったが、声を立てて笑う佐助の調子は良さそうだ。
やはり佐助の言ったとおり効いているらしい。
「まぁ、良いか」
もともと理詰めとは相性の悪い性格をしている。
今回の事もそう深く考えず、佐助が治ったのだから良いと思うことにした。
未だ離れぬ肩口の熱へ手を伸ばし、馴染んだ色の髪へ指をからめた。
明日はジゴロの意味を調べよう。
そんな風に一つ決心して。
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ジゴロの本当に意味を知ったら幸村は憤慨するでしょうね…。
最近では誑しみたいな言葉で使われてる認識でいますが、辞書とかで引いたら恐ろしいことに。
その辺は佐助の巧妙な話術に期待します。
あ、でもこれナチュラルに同居設定だ…!今気付いたとかどんだけ私デフォでこれ書いていたのか…。